映画(やまなかときわ)
山中常盤
牛若丸と常盤御前 母と子の物語
カラー/35o 16o/1時間40分/製作:自由工房
これは近世初期に活躍した絵師、岩佐又兵衛の作といわれる絵巻「山中常盤」(やまなかときわ)を題材にした映画です。私は大分以前から、絵巻物を映画にしてみたいと思っておりました。絵巻物はいってみればその昔、今の映画や劇画のような役割を果たしていたのではないでしょうか。その絵巻物を映画にしたら、その絵巻が語りたいことが、いっそうよく表現できて面白いのではないだろうかと思ったのです。何故このようなことを考えたかといいますと、以前、近世初期の風俗画の映画を作ったことがあり(「風俗画−近世初期−」1967年)、絵を撮ることが非常に面白いことを知り、その時から絵巻物を撮ってみたいと思っていたのです。
「この絵巻を」と思う絵巻に出会ったのは、それから10年あまり後のことですが、その絵巻が「山中常盤」でした。この絵巻はMOA美術館の所蔵品ですが、安岡章太郎氏、辻惟雄氏のお力添え、さらにMOA美術館のご好意によって、全巻の撮影をすることができました。それは1992年、もう10年以上前のことになります。しかしその後、私どもは老人問題をはじめとするタイミングをはずせない作品の製作に追われて、この作品に手がつけられませんでした。この度ようやく長い間の宿題を果たしたことになります。
この絵巻は、全12巻、全長150mに及ぶ極彩色の豪華なものです。「山中常盤」というのは牛若丸と母の常盤御前の物語で、近世初期に人形浄瑠璃として人気のあった物語といいます。絵巻も、今では伝承されていない古浄瑠璃の言葉につれて物語が展開しており、絵の表現は驚くほど強烈です。
この絵巻の作者、岩佐又兵衛の父は、織田信長に叛旗をひるがえした伊丹有岡城の城主、荒木村重です。村重が城を出た間に、城は信長によって落とされ、又兵衛の母たしを含め、一族郎党600余人はことごとく処刑されたのでした。まだ乳呑児だった又兵衛はひそかに助け出され、無事成人して、極めて個性的な絵師となったのでした。
この絵巻を見ると、私には斬殺された見ぬ母への又兵衛の思いが込められているように思えてなりません。この映画では、絵巻の素晴らしさとともに、絵巻にこめた又兵衛の想いも表現しようとしました。
2004年1月 羽田澄子
絵巻「山中常盤」発見のエピソード
絵巻「山中常盤」は、岩佐又兵衛(1578‐1650)の作品とされているが、この絵巻を私たちが今日、目にすることができるのは、昭和3年(1928)、長谷川巳之吉氏によって発見されたことによるといえる。
当時、第一書房の代表であった氏が、ふと立ち寄った古書店で、あるドイツ人が「2万5千ドルで買うことになった」と言われて見せられたのが、この絵巻の写真だったという。氏は絵巻の素晴らしさに驚き、何としても国外に持ち出されるのは防がねばと、家を抵当に入れ、私財を売り払って資金をつくり、この絵巻を入手したのである。この絵巻は、旧津山藩主松平家に伝わったものであったが、大正14年(1925)、某家のものとなり、それがドイツ人の手に渡って国外に出るところを、その寸前に、長谷川氏によって止められたのであった。
絵巻は翌昭和4年、京都博物館で、昭和5年には東京の三越で、全巻展示され、押すな押すなの盛況であったという。現在、絵巻「山中常盤」は熱海のMOA美術館の所蔵となっている。
この絵巻発見によって、「堀江物語」「浄瑠璃物語」「小栗物語」といった一連の絵巻作品群の存在が明らかになり、学会に幾多の論争を巻き起こしたが、現在では、岩佐又兵衛あるいはその工房作品と認められるようになっている。
|
協力 製作 演出 撮影 照明 録音 ヘアメイク 原版編集 |
MOA美術館 安岡章太郎 辻惟雄 工藤充 羽田澄子 若林洋光 宗田喜久松 中元文孝 滝澤修 高橋功亘 加納宗子 |
作曲 作調 浄瑠璃 三味線 胡弓 囃子 小鼓・打物 大鼓・打物 太鼓・打物 笛 デザイン ピアノ ナレーション 出演 |
鶴澤清治 仙波清彦 豊竹呂勢大夫 鶴澤清治 鶴澤清二郎 鶴澤清志郎 仙波清彦 望月圭 山田貴之 福原寛 朝倉摂 高橋アキ サティ・ピアノ音楽全集 東芝EMI 喜多道枝 片岡京子 |
この作品の浄瑠璃を作曲された鶴澤清治氏は、このたび、平成15年度日本芸術院賞の恩賜賞を受賞されました。
![]()