映画「終りよければすべてよし」について
いま日本の社会で問題になってきていることのひとつに、老後の最終段階となる終末期のケアの問題があります。
すべての人にとって、絶対に避けられないのが死です。しかし自分がどんな死をむかえるかは誰にもわかりません。理想的な死とは、自宅で親しい人に見守られ、安らかな最後を迎えることではないでしょうか。
しかし現在、「富山の射水市民病院の人工呼吸器はずし問題」が象徴しているように、多くの人が病院で延命措置を受けながら亡くなっています。
いま日本では病院での死が80%を越え、自宅での死は13%にすぎない状況です。
これは進歩する医療に対する信頼が生んだ傾向といえそうですが、現在、長期療養病棟に入院している人の半数近くは、高度の医療は必要ない状態といいます。病院での過重な延命措置は、医療費の問題でもありますが、本当は人間の尊厳を守り、終末期のケアを自宅でできるようにする理念とシステムが出来ていないという、大きな問題を抱えているのです。現在では、往診してくれる医師も少なく、自宅で安らかに最後を迎えるのは、なかなか難しい状況です。2006年4月には「在宅療養支援診療所制度」が設けられましたが、現在この制度は普及率が低く、その医療費の面など様々な問題もあります。
この映画は、日本での在宅や福祉施設での人生終末期のケアの優れた例とともに、オーストラリアとスウェーデンの進んだシステムも取材しました。
今回の映画では、医療サイドからの視点でつくった作品で、在宅医療の理念とシステムの問題を中心に取り上げていますが、映画を作りながら、人が生きるためのシステムを可能にするには、看護や介護のサービス、福祉サービスと医療の連携の大切さを感じることにもなりました。さらに、政治は無論のことですが、医師の努力とともに、それを推し進める住民の力が大切なのだと痛感しています。
この映画を作ることができたのは、ご本人、ご家族、関係者の方々の信じられないような御協力によるものです。心よりの尊敬と、深い感謝をささげます。
(演出:羽田澄子)
■ 2006/カラー/129分/DVCAM
■ スタッフ
製作:工藤充/演出・ナレーション:羽田澄子/撮影:西尾清/整音:岩橋政志(アオイスタジオ)
ピアノ:高橋アキ(サティ・ピアノ音楽全集 東芝EMI)/海外インタビュー部分ナレーション:喜多道枝/演出助手・ノンリニア編集:佐藤斗久枝/コーディネーター:マーフィー洋子(オーストラリア)・藤井 恵美(スウェーデン)/翻訳:小林明男・瀬口巴
■ 協力
ライフケアシステム 総合ケアセンターサンビレッジ 医療法人アスムス
バララットヘルスサービス クレズウィックメディカルセンター
ストックホルムシックホーム ストールトルプ老人センター アシーロングブロパーク ソルベリーガーデン
新潮社 読売新聞社 朝日新聞社 毎日新聞社 NHK厚生文化事業団 日本ホスピス緩和ケア協会
■ 製作・配給
株式会社自由工房
〒150-0036 東京都渋谷区南平台町15−1
TEL:03−3463−7543/090−6952−1905 FAX:03−3496−4295
Email:jiyu-kobo@nifty.com
■「終りよければすべてよし」の撮影対象について
ライフケアシステム
ライフケアシステムは1980年に発足した日本で最初の在宅医療のシステムです。佐藤智医師によって始められましたが、始めた原動力は患者となる人達の活動でした。「ライフケアシステム」は在宅医療を会員制で支えているシステムです。現在、会員は東京都を中心に約350世帯。会費は会員の合意で決められ、現在は一世帯当たり最低7000円。医療費は健康保険。医師は佐藤智医師を中心に、常勤3人、非常勤2人。定期的な回診、24時間対応の体制をとっています。
サンビレッジ新生苑
1976年に設立された岐阜県池田町にある特別養護老人ホーム。この施設は映画「安心して老いるために」の舞台にもなりました。
入居者は130人。ここは、石原美智子前施設長の頃からオーストラリアの老人施設と交流して、多くのことを学び、先進的なケアを行なってきました。
数年前から常勤の医師の参加によって、ターミナルケアが行なわれていますが、どのような方法でターミナルケアが行なわれているか。ケアを受ける人、医師を中心に、介護するスタッフの姿も描いています。
オーストラリア
池田町のサンビレッジ新生苑が多くを学んだのは、オーストラリア、バララット市の老人福祉でした。今回はサンビッレジ新生苑の医師と共に訪れ、バララット市が新しく組織した「バララットヘルスサービス」について、責任者にインタビュー。この組織は医療と福祉が提携した総合的な組織で、ここにアクセスすれば、医療でも福祉でも、その人が必要とするサービスにつなげることが出来るのでした。この「ヘルスサービス」の組織のひとつ「クイーンエリザベスセンター」にある緩和ケア病棟「ガンダーラ」で、中心となっているブラムリー医師にインタビュー、その働きを取材しました。
また総合病院とクリニックの関係を説明。クリニックである「クレズウィックメデイカルセンター」が24時間の対応をし、在宅医療も行なっている様子を取材。さらにターミナルケアに対する一般市民の意見もインタビューしました。オーストラリアでは医療の基本は税金で運営されていますが、民間の生命保険も利用できるということでした。
スウェーデン
スウェーデンが国として人生終末の医療にたいして、どのように対応しているかを是非知りたいと思い、社会大臣にインタビュー。その対応としては、スウェーデンでは現在、在宅医療の充実に力をいれていることを大臣は話してくれました。
その実状をストックホルム県で取材。かつての長期療養病棟はいまや姿を消し、医療や介護の必要な人の住居となっている様子を「ストックホルムシックホーム」「ストールトルプ老人センター」「ソルベリーガーデン」で紹介。そこでの患者、医師、ナースの姿を通して、ターミナルケアの状況を取材しました。
また社会大臣が強調した在宅医療を支える強力なシステム、「ASIH(アシー)―高度な在宅医療チームー」の活動のいろいろな場面を紹介しています。スウェーデンでは医療は基本的には税金で賄われていますが、個人負担もあります。個人負担は国が上限を決めていて、一年に支払う額は僅かです。
医療法人 アスムス
栃木県小山市、栃木市、茨城県結城市にまたがる地域で、太田秀樹医師を中心とする「医療法人アスムス」の在宅医療の活動を取材しました。アスムスは、現在、国の制度となっている「在宅療養支援診療所」です。医師は常勤5人、非常勤4人。24時間対応の体制をとっています。
アスムスは診療所の他に、在宅医療を支える老人保健施設、グループホーム、デイセンター、訪問ナース、訪問ヘルパー、居宅介護支援事業所などの事業も立ち上げています。アスムスの活動をみていると、在宅医療は、医療と福祉の提携によって支えられることが、よく理解できます。運営は健康保険、介護保険によっています。
いま日本で普及が期待されているのは、このような在宅医療ではないでしょうか。医師たちの積極的な活動が期待されるのと同時に、それに応える地域住民の理解と熱意が必要だと思います。