「モゥモ チェンガ」の物語(104分)
                    ナレーター 吉行 和子

みなは私を「モゥモ チェンガ」と呼んでいます。モゥモはお婆さん、チェンガは満月。つまり満月という名の婆さんですよ。
あの時、チベットからヒマラヤを越えてネパールやインドに命からがら逃げ出してもう40年以上の歳月が経ちました。
今、私が住むこのネパールの難民キャンプは、ヒマラヤ山脈が遠望できる風光明媚なところです。ここで子供たちや孫たちに至る三世代、1200人だいっしょに暮らしています。お寺も、学校も、病院もあるのです。あの時まだ小さかった私の息子や娘たちにもそれぞれ子供ができて、今では一家の中心として働いております。
私は娘たちや孫たちに囲まれて幸せに暮らしていますよ。それもこれも仏様のお陰です。
私の日課は朝夕のお寺参り、百回、二百回の五体投地、そして一日中称える真言・・・何より大事なのは信仰です。
後は同じキャンプのお年寄りと話したり、台所の仕事をしたり、極々平穏な毎日を過ごしております。
このキャンプの多くの家庭がそうなのですが、私の家でも娘夫婦はチベットの土産物を外人さんに売って生活を支えています。
近ごろはすっかり売れなくなって、娘達は将来を案じていますが、何とかなるものですよ。
一年で一番楽しく賑わうのはお正月。チベットの暦のお正月ですから、私達のキャンプの中だけのお正月ですよ。
一ヶ月も前から一家そろって準備をします。お祝いの仕方は、お寺でも家庭でもすべてチベット式ですよ。チベットに帰れなくなって、何十年経っても私達はチベットを忘れる事はありません。このチベットのお正月は外人さんには珍しいものだそうですね。
お正月が終わってしばらくして、親戚の若い夫婦が「モゥモ、ダライラマ法王に拝謁するために、インドのダラムサラへ一緒にいかないか?」と誘ってくれました。
私は思い切って誘いにのりました。長い列車とバスの旅でした。
ダラムサラでは、長い間会っていなかったインドに住む兄やメイが会いにきてくれました。
そしてついにダライラマ法王に拝謁する日がやってきました。私は法王に、何十年もの間苦しんできた、その心のうちを吐露したのですよ・・・
私の人生で一番楽しかったこと?そりゃ、この一ヶ月のインドの旅ですよ。