第九巻

六人の盗人どもをやりすごし まくらなる御太刀するりと抜き 
せめくちの六郎が諸膝(もろひざ)なぐらせ給えば 
のっけにかえすところを細首宙に打ち落とし 
あしたの露とぞ消えにける

残る五人がこれを見て 憎き小冠者(こかじゃ)が有様かな 
あますなもらすな討ちとれと 
言うままに 御曹司をなかにとりこめ 

きみはこのよし御覧じて あらおもしろのことどもやと 
かれらが眼(まなこ)に霧の印をむすんでかけ 
御身には小鷹のほうを召されつつ 宙にずんとあがらせ給いて

残る二人がこれを見て 
かなわじとや思いけん 門外さしてぞひいてゆく             

源(みなもと)このよし御覧じて 追っかけ給いて いや 逃ぐるとも逃がさじ 
汝ら過ぎつる夜 このやどにて狼藉しけるを いま思い知らせんがためぞとて 
門よりうちにて 二人の者をば 車切りにぞ召されける

第十巻

御曹司は すこし息をつかせ給うが 
御曹司の嬉しさは雲にも届くばかりなり

やどの大夫は遅かりけれども物具して 白柄の薙刀の鞘をはずして杖につき 
震い震い いでられしが 源(みなもと)の御前にたちより 
いかに旅の殿 なにと召されて候ぞや 手は負わせ給わぬか 
いかにいかにとありければ 

きみはこのよし聞こし召し さん候 六人の夜盗(よとう)のものをば 
ここやかしこにて 二つや三つになして候 
かれらが死骸を隠してたび給え 大夫いかに とおおせける

大夫このよしうけたまわり 荒薦(あらごも)あまたとりいだし 
かれらが死骸をおし包み 夜のまに淵へぞ沈めける 
            
夜もほのぼのと明けければ 御曹司はやどの大夫を召されつつ 
いかにや申さむ大夫どの 大夫どのの御情けは忘れがたく候とて 
砂金十両とりいださせ給いて もののかずにはあらねども 
これは当座の引物(いんぶつ)なり それがし世にもいづるなら 
必ず所知(しょち)をまいらすべし

いとま申してさらばとて 大夫が宿所をいでさせ給いて 

又 常盤の御墓へ参らせ給いて よきに回向をなされつつ