1967年・第18回ベネチア国際記録映画際グランプリ昭和42年度芸術祭参加 文部省選定 母たち
製作 株式会社 電通 株式会社 藤プロダクション 工藤充 監督 松本俊夫 詩 寺山修司 撮影 鈴木達夫 声 岸田今日子 音楽 湯浅譲二 企画 プリマハム ●解説 母たち≠ヘ、松本俊夫監督を中心としたスタッフの人々が、1967年2月から、約40日間にわたって、アメリカ、フランス、アフリカ、ベトナムにロケを敢行、人種、風俗、歴史的、社会的条件などを、それぞれ異なった環境のもとにある4人の母親たちの姿を詩的タッチで描いたものである。
● アメリカ・ニューヨーク、ハーレムの黒人母親、――
●フランス・パリの平和なサラリーマンの若き母親、――
●ベトナム・コンデルタ戦争下の母親、――
●アフリカ・新興国ガーナの母親、
の4態を通して、日常の生活と母親の愛、その背後にある社会的条件をとらえたこの映画は、
1967年、第18回ベネチア国際記録映画際において自由な想像力を通して母性感情の詩的イメージを見事に表現したもの≠ニ絶賛され、グランプリ・サンマルコ獅子賞を受賞した。
監督の松本俊夫は、映像芸術の会に所属しアートシスター選定委員であり、前衛的な映画作家として知られ、今回の受賞は1962年「西陣」に次いで2度目である。
撮影は新しい映像の担い手として知られる、「とべない沈黙」「水で書いた物語」「陽の出の叫び」の鈴木達夫。
詩、寺山修司、声が岸田今日子。音楽は湯浅譲二が担当している。
<母たち>を監督して松本俊夫 私は映像で詩をつくることが大好きです。私は自分の詩的感情を、物語や説明に頼らず、できるだけ直接映像と音で表現するよう努力してきました。私の代表作は「白い長い線の記録」にせよ「西陣」にせよ、また「石の詩」にせよすべてそのような映画詩ですが、今度作った「母たち」もやはりその例外ではありません。
「母たち」は文字通り母をモチーフにした映画詩で、作品の全体は4つの部分から構成されています。それらはそれぞれアメリカ、フランス、ヴェトナム、ガーナで取材されたもので、ここに登場する母たちは、皮膚の色もさまざまだし、社会的背景や生活の条件もひどくまちまちです。私は一方でそれらのあまりにも異なる母たちの対比に深い感慨を抱くと同時に、他方ではそのちがいにもかかわらず母たちは本質的に1つだと言うことに心をうたれました。私はあえてその素朴な心象を大切にしようとしましたが、それはその素朴な心象が今日表現されるにたる何かを内包していると思うからです。
私はこの作品をシナリオなしにすべて即興的に撮影しました。むろん今度のようなぶっつけの海外ロケには、仮定づくめのシナリオなどつくっても意味がないということもありましたが、何よりもナマな第一印象からイメージを帰納的に構成してゆくつくりかたをしたかったからであります。製作期間がきわめて短かっただけにそれは非常な冒険でしたが、冒険にかけただけの成果は充分生みえたものと自負しています。
この作品の誕生は、その意味であえてそのような冒険を許してくれたスポンサーや製作会社に負うところが大であると同時に,それぞれの立場からそれぞれの実力を力いっぱい注いで私を助けてくれた有能なスタッフたちに負うところが大であります。そしてこのことはいくら強調してもしすぎることはありません。